月のリクエスト数は1万件以上、新規ユーザーは毎月30名ずつ増加。徹底的に利用のハードルを下げた結果、多くの社員が生成AIを“何気なく”使える環境に

化粧品による肌トラブルが社会問題となっていた中、創業時から「無添加」にこだわり、世界中の人の美と健康をサポートしている『株式会社ファンケル』(以下、ファンケル)。化粧品と健康食品の製造および販売をしている同社では、品質と安全性に独自の基準を設けて製品開発を行うとともに、製造から販売までの製販一貫体制を敷いている。通販や小売店、自社店舗、ECモールなど幅広い販路で事業を展開し、近年はアジアを中心とした海外展開も強化している。

同社では「もっと何かできるはず」という経営理念を掲げており、新しい技術や発想に対して柔軟かつ主体的に挑戦する社風が特徴だ。生成AIの普及が加速する中、製品の口コミなど定性的なデータの分析における人手への依存からの脱却を目指して「ユーザーローカル ChatAI」(以下、ChatAI )を導入した。導入当初は社員への認知や定着が思ったように進まなかったが、情報管理の安全性を確保しつつ、利用に対するハードルを徹底的に下げたアプローチで社内への浸透を実現した。現在は特定の業務に用途を限定せず、社員が自発的にあらゆる目的で活用できる環境を整備し、約300人の社員が日常的に生成AIを使う文化が形成されている。ここでは、ChatAIの使用を社内に根付かせた戦略や活用術などについてお話を伺っていく。

fancl
株式会社ファンケル
グループIT本部情報 システム部 コーポレートシステムG
片山 翔一 氏

導入背景

お客様からの口コミを効率的に解析したいという課題から生成AIの導入を検討
決め手となった「使いやすさ」と「セキュアな環境」

ファンケルグループは数多くの製品を展開し、毎日のように多数のお客様から声が届いている。製品に対する口コミなどの定性的なデータの活用に課題を感じていたことが、ChatAI導入の背景だ。片山氏は従来の口コミの分析方法について「お客様が投稿した口コミを1つずつ人の目で見て解析していました。しかし、それでは担当者のスキルに依存してしまったり、解析できる口コミの数に限界があったりします。そこで、生成AIを活用して効率化できないかと考えました」と振り返る。

また、人の目で口コミを解析すると、担当者だけしか扱えないようなデータとなってしまうケースもあったという。「お客様の声を製品開発やプロモーションに生かすためには、口コミの解析に対する敷居を下げ、幅広い部署の人が活用できる環境を構築する必要がありました」と片山氏。

口コミの解析という具体的な課題が生じていたタイミングと同時に、ファンケル内では多くの部署から生成AIの導入を求める声が上がっていた。具体的には、あらかじめ情報を読み込ませておいて気軽に質問できるチャットボットのような機能や、契約書のリーガルチェック、製品パッケージに記載する文章の確認など、あらゆる場面で生成AIによる効率化が望まれていた。「導入前の時点ではファクトチェックなどの乗り越えるべき課題を考えるよりも、とにかく生成AIを活用すれば自分たちの業務を効率化できるのではないかという期待が膨らんでいました」と、片山氏は社内で生成AI導入の機運が高まっていたことを明かした。

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社内での声が強まる一方で、生成AIの導入には「情報管理」という課題もあった。社内の機密情報を扱う以上、入力情報が外部に漏れたり、学習に使われたりする心配があっては業務では使えない。「仕事で扱う情報は基本的に機密性の高いものです。公開されている生成AIツールを導入して『機密情報は入れないで』と言われると、ユーザーは萎縮して気軽に使えなくなってしまいます。ユーザーにとっても管理側にとっても安心できるツールを提供することが、生成AIを導入するうえでの大きなミッションでした」と片山氏は語る。生成AIを社内に浸透させるためには利用に対するハードルを下げる必要があり、その中でも安心して使える環境は欠かせない。

そこで「口コミなどのデータファイルを解析できるような機能があること」と「セキュアな環境で安心して使えること」を条件にツールを選定した。「ChatAIは求めていた条件に加え、使いやすさとコストに魅力を感じました。画面が見やすくて直感的に使えることは、利用のハードルを下げてくれます。また、リクエスト回数で制限されてしまうと、ユーザーも管理側も萎縮してしまいます。ChatAIはリクエスト回数の従量課金がなく、制限を気にせず使用できるので、社内で広く使ってもらいたいという私たちの思いに合致していました」と片山氏は導入に至った理由を説明する。

活用方法

ユーザーを増やすため、徹底的に利用のハードルを低く設定
文章校正からマーケティングの壁打ちまで幅広く活用

ChatAIの社内浸透において、ファンケルが最も意識したのは「利用の手軽さ」だったという。当初は口コミの解析という特定業務での利用を想定していたこともあり、なかなか浸透が進まなかったようだ。そこで、さまざまな部署から生成AIを希望する声があがっていたこともあり、とにかく利用の間口を広げる方針に転換した。

利用の間口を広げるうえで特徴的な点として、管理側がユーザーに利用目的や効果の申告を求めなかったことがある。「利用前に使い方や事例の説明をしましたが、それ以降は利用内容の把握や目標値の設定などをしていません。目標値を求めてしまうとユーザーはChatAIを使うことに抵抗を感じてしまう可能性があります。私たちはとにかく使ってもらい、その中で効果的な活用方法を各自で見つけ出してほしかったので、手軽な申請書のみで使える環境にしました」と片山氏は説明する。

この利用に対するハードルを下げる方針は、ファンケルの社風と親和性が高かったという。「会社の経営理念に『もっと何かできるはず』を掲げていることもあり、社内では新しい事業やシステムを積極的に取り入れようとする風土が醸成されています。そのため、ChatAIの導入を社内掲示板に数回載せただけで利用を開始する人が出てきました。その後は従業員同士の推薦で利用が広まっていき、時には有志でプロンプトの作り方を共有するといった動きが自然と発生していますね」と片山氏。

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従業員が自由にChatAIを活用している中、実際の用途は大小さまざまだという。大きなプロジェクトを遂行するためにマーケティングの壁打ちをする人もいれば、日常のメールの構成を直してもらうことに使っている人もいる。特にファンケルでは外国籍の従業員もいるため、その従業員が作成した日本語の文章を推敲してもらっているケースもあるようだ。

ファンケルは販売のみならず製品開発も行っており、研究部門でも製品企画の壁打ちなどにChatAIを使っているという。「化粧品や健康食品は専門性が高く、生成AIで調べるだけで製品開発はできません。しかし、お客様の悩みや口コミからどのような製品を打ち出すとよいかといった壁打ち相手として適しています。例えば、『青汁を使った面白いアレンジメニューを考えてください』のように聞き、実現できそうなものがあればプロモーションの1つとして展開するかもしれません」と、片山氏は説明する。

製販一貫体制をとっているファンケルには、さまざまな職種の社員がいるが、研究部門のみならず管理部門や工場での製造部門でも活用されている。

効果・成果

新規ユーザーは毎月30名ほど増加、月のリクエスト数は1万超
“何気なく”生成AIを使う環境を作れたことはビジネスにおいて大きな価値を持つ

現在のChatAIのユーザー数は社員の約1割以上にのぼり、毎月30名ほどの新規利用申請が届くという。また、すべてのユーザーが過去2ヶ月以内に利用しているアクティブユーザーであり、月間 チャット数が1万を超えている点もChatAIが浸透しているといえる証だろう。片山氏は社内で生成AIが浸透したことについて、「心理的ハードルがなく、日常的かつ自発的に生成AIを使っている人が増えているのが何よりも大事なことだと思います。インターネットも最初は『情報が漏洩しないか』など抵抗を持っていた人も多かったですが、次第に使うことが当たり前になりました。生成AIも同様だと考えており、今の時点で使い慣れている人が多い状態を作れているのは非常に価値があることだと思います」と評価している。

また、片山氏はChatAIのユーザー数が増加している要因の1つに「UIが優れている点」を挙げた。「文章生成や画像生成、ファイルの読み込みを共通のUIで実行できるのは、利用の手軽さにつながります。機能ごとに異なるサービスを使うとなるとユーザーは手間を感じて使わなくなってしまいますし、そもそも複数のサービスを使うために何回も利用申請を出さないといけないケースもあります」と説明する。

片山氏は今後もユーザーの利用内容や定量的な成果を図ることはない予定だという。「内容を見すぎるとユーザーが『管理されている』と感じて利用に抵抗感を持ってしまう恐れがあるので、適度な距離感を保っています。効果を図るよりも、ビジネスの変化が激しい中で生成AIを使い慣れている人を社内に1人でも多くすることの方が、価値があると考えています」

今後もChatAIを“手軽”で“安全”に使える環境を作り続けることを片山氏は考えている。「何気なく生成AIを使えている人の多さに価値を感じているので、まだ生成AIにハードルを感じている従業員に対するアプローチは継続して考えていきたいです。そのうえで生成AIの進歩とともに、応えられるニーズの幅もその度に広げられることを期待しています」と、さらなるユーザーの拡大と用途の展開も見据えている。

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