翻訳から契約書チェックまで医薬品業界特有の専門業務でも効率化を実現
手厚いサポートと社内ワークショップの実施で全社展開に成功
住友商事グループの中核事業会社として、医薬品産業を支える『住商ファーマインターナショナル株式会社』（以下、住商ファーマインターナショナル）。創薬研究向け解析機器や生物資源の提供、創薬支援から、新薬およびジェネリック医薬品用原薬・中間体等の安定供給まで包括的サービスを提供するリーディング商社として医薬品サプライチェーンを担っている。また、原薬の品質を保証する「原薬分析センター」と、解析機器の技術的支援施設である「横浜サポートセンター」という二つの自社ラボを持ち、海外サプライヤーとの緻密な連携を図りつつ、最先端技術を日本国内の研究機関に紹介するなど、総合的なサポートも展開している。
住商ファーマインターナショナルでは、医薬品産業という特性上、部署を問わず正確かつ緻密な作業が求められる。DX推進に注力する同社では、こうした業務の効率化を全社的に目指し、生成AIの導入について活発な議論が行われてきた。そうした中、2024年6月に、「ユーザーローカルChatAI」（以下、ChatAI）の試験導入が開始した。セキュリティ面はもちろんのこと、コスト面や使い勝手の良さも大きなポイントとなったというChatAIの導入背景から現在の活用方法、その効果に至るまで、お話を伺っていく。
業務部 業務推進グループ長 塚田鉄也 氏
業務部 業務推進グループ主任 檜山翔太 氏
導入背景
セキュアな環境で従量課金なし、手厚いサポートも魅力
トライアル検証からスムーズな全社展開へ
さまざまな生成AIサービスが普及する中、同社でも日々の業務に生成AIを取り入れる動きが2023年頃から活発になっていた。DX推進を担う業務部業務推進グループ 塚田氏は「生成AIについては、当社でも利用上の注意点を定めたガイドラインを策定し、セキュアな環境で安心して活用できるサービスを探していました。ポイントは初期費用、安全性、機能性です。ユーザーローカル社のChatAIは、入力情報が学習に利用されないセキュアな環境で利用でき、かつ導入コストも比較的安価に抑えられ、本格導入の前に試用できる点も大きな魅力でした」と語る。
業務部 業務推進グループ長 塚田鉄也 氏
トライアルでの感触について、檜山氏は「まず、シンプルでわかりやすい管理画面や、ユーザー視点で使ってみても誰もが使いやすいと感じるUIが印象的でした。ChatAIにアップロードしたデータについてユーザーごとにアクセス権設定が可能な点や、プロンプトテンプレートの登録もしやすく、想定していた必要な機能を満たしています。また、料金体系も従量課金がなく、自由に幅広く活用できると感じました」と述べている。
業務部 業務推進グループ主任 檜山翔太 氏
試用期間中から社則などの社内ドキュメントをアップロードし、効果的なプロンプトを検証。そこから契約書のレビューや社内申請書の作成補助など、実務を想定したテンプレートを作成したところ、利用者からの反応も非常に良く、一定の業務効率化が見込めると感じた結果、2024年11月末に全社導入を決定した。
また、導入前後におけるユーザーローカルの営業担当によるサポートも大きな魅力だったという。導入前から操作方法や、自社に適したプロンプト例、活用方法などについて、丁寧なオンライン説明会やレクチャーが行われました。全社導入直後には、利用者を対象としたプロンプト作成のワークショップを東京と大阪の2拠点で実施。基本的な操作方法だけでなく、同社の業務に合わせた具体的な活用方法について参加者同士でディスカッションしながら学ぶことができ、全社的な活用への手ごたえを得ることができたといいます。
活用方法
英文メール作成からリーガルチェックまで幅広く活用
医薬品業界ならではの専門業務でも効率化を実現
住商ファーマインターナショナルでは、実務に沿った活用のために、社則や社内マニュアル、研修資料などをアップロードし、多様な回答が得られるようにしている。社員の活用アイデアはイントラネットなどで共有し、ユーザー側でも有用なテンプレートの追加登録も手軽に行うことができ、社内での活用バリエーションを広げながら周知を進めている。
中でも特によく活用されているのは、英文メール作成時などの翻訳サポートだ。同社では、グローバルネットワークを活用した海外とのやり取りも多く、英文メール作成や翻訳にはこれまで多くの時間が割かれていた。檜山氏によれば、ChatAIの導入によって「例えば、こちらから英文でメールを送る際にもう少しフォーマル／カジュアルにしたい、この単語を使わず、よりストレートで分かりやすく伝えたいといった感覚的な指示を出すことができ、文脈に即したニュアンスで翻訳できるのは非常に便利です。これはウェブ検索では実現できなかったことです。英文で届いたメールへの返信案も速やかに作成できるため、ChatAIの翻訳による効率化の効果は非常に大きいと感じています」という。
営業部門では、契約書のリーガルチェックにもChatAIを活用している。「業務で使用する契約書をアップロードし、必要な条項の確認、誤字脱字のチェック、さらに修正前後の契約書案の新旧比較を行うテンプレートを作成しました。これまでは人の目でチェックしていたため、時間も工数もかかり、チェックミスの懸念もありました。しかし、ChatAIを活用することで、スピードも確実性も大幅に向上しました」（檜山氏）他にも、社内申請書や契約書作成の補助の用途についても、「社内申請に必要な稟議書類には契約概要が必要です。この概要の作成にもかなりの時間と工数を要していましたが、必要な項目や内容を的確に抽出できるようになり、作成時間が大幅に短縮されました」と檜山氏はさまざまな活用シーンを語る。
また、医薬品業界ならではの活用例もでてきている。法令により品質管理基準などが厳しく定められており、信頼性保証部では膨大な手順書等に従って確認を行うことが不可欠だが、檜山氏によると「信頼性保証部から“ChatAIを使いたい”という声が上がり、同部門のメンバーのみにアクセス権限を付与したうえで関連法令・省令や手順書を登録しました。セキュアな環境だからこそ安心してファイルをアップロードすることができ、法令・省令の確認や手順書の制改訂手続きといった作業の効率化に繋がっています。専門性の高い業務の補助的ツールとして活用の幅を広げています」
塚田氏によれば、ワークショップで得たアイデアをもとに、チューニングしたテンプレートも実装している。「関連業法対応で必要な資料作成を効率化する補助的ツールとしてのテンプレートから、営業アプローチ先リストから企業の概要などをWEBサイトから抽出するテンプレートを作成しました。ほかにも、会議の文字起こしや議事録作成を行うテンプレートも徐々に使われ始めており、こうした活用の幅や事例が広がるとともに、部署を越えて利用者が増えていると感じています」
効果・成果
今まで数時間かかっていた作業もChatAIを活用して一瞬で完了
継続利用希望率は99％超、若手からベテランまで幅広い層で活用が定着
住商ファーマインターナショナルでは、翻訳、契約書の新旧比較、部門に特化した資料チェック、営業資料作成など、生成AIの活用範囲を広げている。「例えば、契約書の新旧比較や、数十社ある営業アプローチ先の選定業務などは、これまでは工数が多く、数時間かかっていた業務ですが、ChatAIを活用すれば正確に、しかも一瞬で完了するケースもあります。翻訳、文書校正、要約、膨大なデータの抽出作業といった業務でも、一瞬で正確に行えるケースが増えてきており、他の業務に注力する時間が確保できていると感じています」と檜山氏。
実務に沿ったテンプレートの登録や社内イントラなどでの周知も行い、導入から3か月ほどでチャット数は1日に約300件と、利用数も増え続けているという。「ワークショップの効果も大きかったと感じています。部長やベテラン社員も参加したことで、若手からシニアまで幅広い年齢層に活用していただいています。導入後、社内からの反応も好評で、『今後も使いたい』との回答がほぼ100％でした。さらに、『PowerPointのVBAコードをChatAIで作成できることに驚いた』『契約書や書類の確認作業において非常に強みを発揮できる』といった声もあり、さらなる活用が見込まれています」と檜山氏は語る。塚田氏も、「セキュアな環境で、しかも従量課金がないため、気軽にどんどん使えるのは大きなメリットです。また高性能な新しい言語モデルや機能のアップデートが順次提供され、ストレスや制限なく利用できるため、ChatAIはアイデア次第で幅広い業務に活用できると実感しています」と手応えを示す。
今後について、「社内で勉強会やワークショップを実施しながら、有用なテンプレートを増やしていければと思っています。周知活動は大事ですね。活用事例などを社内で継続的に周知し、今後も利用者を増やしていきたいと考えています」（檜山氏）「一定のユニークユーザーが定着してくれたことは、一つの成果だと感じています。今後、ますます生成AIが身近になる中、同社でもChatAIを通じて「“こういう使い方ができるのではないか”という話題を、部署を越えた意見交換の中で取り上げ、当社ならではの活用方法を模索していきたいと考えています」（塚田氏）と、さらなる活用を見据えた。
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