学内の全職員へChatAIを展開し、勉強会やワークショップの実施で利用を促進。膨大な資料の検索や要約業務の効率化にも成功
大学・短期大学は学生と社会の架け橋となる教育機関という考えのもと、きめ細やかな担任制度で学生一人ひとりの成長を支える「東京成徳大学」。同大学は、学園創立100周年に向けて策定した「東京成徳ビジョン100」の一環としてICT教育に注力することを示し、大学の全職員にAIライセンスを付与した。その中で安全かつ効果的に生成AIを活用できる環境を目指して「ユーザーローカル ChatAI」(以下、ChatAI)の導入に至っている。
ChatAIのようなツールは導入して終わりではなく、利用者を広げ、実際に活用してもらってこそ効果を発揮するものだ。同大学では、ワークショップや独自の活用事例コンテストといった施策を通じて、ChatAIの利用を文化として根付かせる試みを進めた。その結果、利用者が3倍以上に増加するなど、着実な成果を上げている。ここでは、ChatAIの導入を推進した経営企画室の元木氏に、ChatAIの展開方法や学内の活用方法、今後の展望などについてお話を伺っていく。
導入背景
個人情報や機密情報が漏れない環境であることは絶対条件
「コスト」と「アップデートの速さ」の魅力もあってChatAIを導入
東京成徳大学では「東京成徳ビジョン100」の中で「ICT教育」を重点項目として掲げ、業務改革に取り組んできた。2022年11月にChatGPTが登場し、世間で生成AIへの注目が急速に高まる中、同大学でも職員が安全にAIを使える環境をいかに構築するかが課題となっていた。「当時、職員が個人でChatGPTを使うと入力した情報がどのように扱われるか分からず、学内のセキュリティやガバナンスの観点からリスクがありました。そのため、積極的に利用を推奨できる状況ではありませんでした」と元木氏は振り返る。
元木氏は、時代の流れとしてパソコンやスマートフォンが普及したように、AIも誰もが使うツールになるだろうと考えた。そうした視点から、特定の業務を効率化するという目的以上に、まずは「全職員がAIに安全に触れられる環境」を整えることが必要だと考えた。
そこで、当初からSaaS型のサービスを前提にツールを探し始め、ChatAIに出会った。機能を見ていく中で導入に至った決め手は、大きく3つあったという。
1つ目は、最も重要視していた「セキュリティ」だ。学内の個人情報や機密情報を扱う以上、情報漏洩のリスクを排除できる信頼性の高いサービスであることが絶対条件だった。
2つ目は「優れたコストパフォーマンス」である。「AIの導入が初めてだったため、利用量に応じた従量課金制の場合、どのくらいの費用がかかるか予測が困難でした。特に、どのくらい使われるのか分からない導入初期においては、管理が煩雑になる懸念もありました。その点、ChatAIは定額で利用制限がないため、職員がコストを気にせず自由に使える環境を用意できるのが魅力でした」と元木氏。
そして3つ目が「最新モデルへの迅速な対応」だ。日進月歩で進化する生成AIの世界では、次々と新しいモデルが登場する。「AIの進歩は非常に速く、新しいモデルでないとできないことも増えていきます。ChatAIには最新モデルがすぐに導入されるので、常に新しい機能を試せるという点は、長期的な活用を見据える上でメリットが大きいと感じました」と元木氏は教えてくれた。
活用方法
ワークショップの開催でユニークユーザーが3倍以上に
文章生成を中心に職員から教員まで活用が広まっている
「AIを使える環境を用意しました。皆さん使ってください」と案内するだけでは、ChatAIは一部のユーザーに使われるだけで、なかなか組織全体には浸透しない。元木氏は他社の事例などを参考に、個人の発見や工夫が同僚へ、そして組織全体へと広がっていく「利用者の横展開」を強く意識したという。
まず、導入当初は事務職員約50名で活用を始めた。ユーザーローカルが提供する初級者向けのセミナー動画の視聴を促すとともに、元木氏からも説明会を開催した。「ユーザーローカルさんの動画は非常に分かりやすい内容となっています。加えて私の方でも説明会を開き、直接質問を受け付けながら導入を進めました」と元木氏は振り返る。
元木氏による説明会では、基本的な操作方法から丁寧に解説したという。「Shift+Enterで改行できるといった細かい操作方法なども意外と知らない人が多かったです。また、『プロンプトとは何か』『どのモデルを選べばいいのか』といった質問も多く、まずはAIとの対話に慣れてもらうことが重要だと感じました」と語る。元木氏による取り組みにより、まずは検索エンジンのように気軽にChatAIを使う職員が徐々に増えていった。
ChatAIの導入から半年後、東京成徳大学では次のステップとして、ChatAIを実際に使用しながら生成AIの活用方法を学ぶワークショップを開催した。当日は事務職員のほとんどにあたる約40名が参加した。元木氏は「半年経っても、検索用途でしかChatAIを使ったことがない職員がまだ多くいました。それではChatAIの真価は発揮されません。生成AIならではのアイデア出しのような使い方を体感してもらうことが、このワークショップの目的でした」と教えてくれた。
テーマとして設定されたのは、「新しいオリンピックの競技を考える」という創造性が問われるものだった。参加者は3〜4人のグループに分かれ、競技名やルール、観客にとって面白いポイントといった指示をAIに与えながら、アイデアを膨らませていった。この体験を通じて、自分の求めるアウトプットを引き出すためのプロンプト設計までできるユーザーが増えたという。
ワークショップによる効果は大きく表れており、開催前のユニークユーザー数が月間17名だったのに対し、開催後は59名へと3倍以上に急増した。
利用者が増えたところで、個々の活用ノウハウを組織全体に浸透させるための「活用事例コンテスト」を実施した。各職員が自身の業務でChatAIをどのように活用しているのかを報告してもらい、集まった事例を一覧化し、全職員に共有したという。その後、職員による投票を行い、、特に優れた事例を表彰した。
「このコンテストでは、2つの事例が表彰されました。1つは、学生が提出した文章に対し、AIを活用してフィードバックを行うというものです。もう1つは、会議の録音データから文字起こししたテキストを、AIを使って議事録の形に整えるという活用法でした」 実際に同大学では、文章生成にChatAIを活用するケースが多いようだ。日常のメール文章や起案文書の作成のみならず、教員が論文の要約作成に使う場面も見られるという。元木氏も普段からChatAIを活用しており、「社内チャットで情報共有をする際、伝えたい内容を入力すると『お知らせ記事』のように内容を整理してくれるテンプレートを作成しました」と教えてくれた。
発信先はMicrosoftのTeamsです。Teamsのチャネルに生成AIの情報を共有するスレッドがあるので、そこに発信する文章を作成してください。
対象者は、大学の職員と教員です。生成AIについて詳しくありません。日常的に生成AIを利用できる環境はあります。
・スレッドのメッセージなので、長文にしない。
・一目で内容が分かる様にする。
・フォーマル過ぎても面白くないですが、カジュアル過ぎてもだめ。カジュアル度5段階中の3で作成して。
・必要に応じて絵文字なども利用可です。
こうした活用に加え、元木氏はChatAIの「振る舞い設定」に特徴的な工夫を凝らしていた。それは、ChatAIが利用者に対してポジティブな声かけをするようにチューニングすることだ。「AIとの対話の中で、『頑張っていますね』『その視点はすごいですね』といった言葉を返すように設定しました。すると、利用者から『AIに褒めてもらえるのが嬉しい』という声が上がってきました」と元木氏。
この設定の背景には「AIとの対話を通じて、人間側も成長できる」という考えがあるそうだ。「例えば、部下に漠然と『これをまとめておいて』と指示するのと、『この資料のこの部分を参考にして、こういう構成でまとめてほしい』と具体的に指示するのとでは、アウトプットの質が変わります。AIを使いこなすために的確なプロンプトを考えることは、結果的に人に対する指示伝達能力の向上や業務を構造的に理解することにも繋がるはずです。そのプロセスが楽しいものであれば、職員の成長も促せると考えました」と元木氏は工夫を見せている。
効果・成果
ドキュメント検索機能で作業時間を半分以下に削減
論文の要約や英文の翻訳にも活用して「文章の質」が向上
横展開によって組織に浸透したChatAIは、日々の業務において着実な成果を生み出している。特に「業務効率化」と「文章の質の向上」の両面で大きな変化があったという。
業務効率化の面で特に効果を発揮しているのが、「ドキュメント検索機能」だ。「大学の業務では、文部科学省や厚生労働省が定めたルールや、学内の膨大な規程文書を参照する機会が頻繁にあります。以前は、それらの資料の中から必要な情報を手作業で探し出すのに多大な時間がかかっていました。今では、それらのファイルをChatAIにアップロードしておけば、質問するだけでAIが該当箇所をピンポイントで示してくれます。知りたい情報にたどり着くまでの時間は半分以下になりました」と元木氏は語る。
また、業務の「質」の向上にも大きく貢献している。現在、最も多く使われている用途は「文章作成支援」だという。元木氏は「内部でのやり取りで使うメールや起案文書の作成はもちろん、教員が論文の要約を作成したり、英文の翻訳をしたりする際にも活用されています。これまで時間をかけていた文章作成や推敲のプロセスが効率化され、より質の高い文書をスピーディに作成できるようになりました」と実感している。
導入後に行ったアンケートでは、AIを週に一回以上利用している職員の割合が6割を超え、7割以上の職員から「AIを活用して便利になった」という声が寄せられた。着実に業務の質と効率が向上している手応えを感じているという。元木氏は、「最大の成果は、AIに興味がなかった人も含め、誰もがAIに触れられる環境と文化を構築できたことです。これにより、今後のさらなる業務改善の可能性が大きく広がったと考えています。AIの活用は業界など関係なく、パソコンを使用している人であれば効果は期待できると思いますし、人数が多ければ多いほどその効果も大きくなるでしょう」と総括した。
「今年度からは、全教員へもライセンスを配布しました。職員とは全く異なる教育や研究の現場でどのような使い方が生まれるか、楽しみにしています。今後は教員向けの活用事例なども共有しながら、利用を促進していきたいです」と元木氏は見据えている。
さらにその先に見据えるのは、学生たちのAI活用だ。「AIを使いこなす能力は、これからの社会で必須になると考えられます。AIリテラシー教育の一環として、将来的には学生にもChatAIを使える環境を提供することも検討しています。国が推進する『AIを活用できる人材の育成』に大学として貢献していくことは、我々の使命でもあります」と、教育とAIという大きなテーマと向き合う姿勢も見せてくれた。
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