プロンプト配布や事例共有だけでは、生成AIの利用は根付かない
イオンの利用状況の分析から見えたインサイトと活用促進施策

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GMS(総合スーパー)事業やSM(スーパーマーケット)事業をはじめ、ディベロッパー事業や総合金融事業など、国内外を問わず多岐にわたる事業を展開する「イオン株式会社」(以下、イオン)。M&Aを通じて規模を拡大してきた同社では、グループ共通のDXを経営層の主導で進めてきた一方で、現場ごとの課題は各社によってバラバラであるという実情があった。

そうした中、現場の従業員が自らDXを推進していく「ボトムアップDX」のマインドを醸成し、現場の挑戦を応援する組織として活動しているのが「イオンデジタルアカデミー」である。同組織では、社長からアルバイト従業員まで、上司の許可を得る必要なくいつでも誰でも参加できる学びの場を提供している。近年急速に関心が高まる生成AIに関しても、現場からの強いニーズを受け、ボトムアップでの導入を推進した。

複数ある生成AIツールの中でも、特に「ユーザーローカルChatAI(以下、ChatAI)」の支持は厚く、現在ではグループ20社以上、約3,500名の従業員が利用するまでに拡大している。ここでは、グループ全体へChatAIを根付かせた施策や、今後の展望などについてお話を伺っていく。

イオン株式会社 沖中 優宜 氏
イオン株式会社
沖中 優宜 氏

導入背景

「ボトムアップDX」を推進するために、イオンデジタルアカデミーが現場の挑戦を後押し
固定料金のChatAIは利用者の心理的ハードルを下げ、とにかく試すのに最適だった

企業が生成AIツールを導入する際、経営層からはセキュリティや運用面、投資対効果に関する懸念がよく上がるものだ。イオンでもこのような声があった一方で、現場からは「生成AIを使ってみたい」という要望が上がっていたという。しかし、投資対効果については、生成AIツールを使ったことがないため具体的な効果を示すことができず、ジレンマを抱えていた。

こうした現場の課題解決と挑戦を支援するために活動しているのが、「イオンデジタルアカデミー」である。同組織は、トップダウンによるDX推進だけでなく、現場の従業員自らが身の回りの課題をデジタルで解決していく「ボトムアップDX」の醸成をミッションとしている。具体的には、ウェビナーなどを通じた「気づく場」、各種トレーニングを通じた「学ぶ場」、ポータルサイトやコミュニティによる「創る場(つながる場)」を提供している。特徴的なのは、これらの活動には社長からアルバイト従業員まで、上司の許可なくいつでも誰でも参加できることだ。

イオンデジタルアカデミー

イオンデジタルアカデミーが中心となり、生成AIの導入においてもボトムアップのアプローチを採用した。まずは各ITベンダーと協力して安全な「お試し環境」を構築しPoCを進め各社でどのような活用が見込めるか、活用を進めるために必要なものは何かを検証した。そうしたPoCを経て、イオンデジタルアカデミーは目的別に3種類のパッケージを展開し、各社に使用する生成AIツールを選択してもらった。その中でも、ChatAIは多くのグループ会社から「使いたい」と指名され、今でも利用希望企業が増え続けている。

イオン株式会社 沖中 優宜 氏

ChatAIの利用が進んでいる大きな理由の1つが「ユーザーあたりの単価が安価であり、かつ固定料金制」な点にある。「ChatAIは従量課金制がなく、どれだけ利用しても料金が固定な点は非常に助かります。予算が組みやすく、いくら使っても金額が一緒なので『もっと使っていこうよ』と言いやすいですね。これは非常に大きなポイントでした」と沖中氏。イオンでは従量課金型の生成AIツールを使った経験もあるが、予算管理の観点から現場が利用を萎縮してしまう傾向にあるという。新しい技術を現場に浸透させるためには、費用を気にせず、失敗を恐れずに試行錯誤できる環境が不可欠であり、ChatAIの料金体系はそれに最適だったのだ。

「もちろん料金面だけでなく、使い勝手も非常に良いです。誰でも使いやすいUIに加え、複数のAIモデルが使え、RAGなども誰でも簡単に使用できます。また、機能のアップデートも早いのでアンテナの高いユーザーからの評価も高いです」とChatAIの使い心地を語ってくれた。

活用方法

プロンプトを配るだけでは生成AIの活用は進まない
「従業員を講師にした勉強会」や「部署を限定したトレーニング」により、活用が一気に浸透

今ではグループ20社以上にChatAIを展開しているイオンだが、利用率の向上には多くの試行錯誤があった。当初、利用率を上げるために、生成AIを積極的に活用しているユーザーへのヒアリングを実施し、「プロンプトテンプレート集」を作成した。また、トップユーザーの活用事例を収集し社内に展開したが、現場には全く定着しなかったという。

この施策について沖中氏は「プロンプトテンプレートが使われなかったことは予想外でした。『思った通りの回答が出ない』『自分が欲しい議事録の形式じゃない』といった声が上がり、トップダウンで情報を流すだけでは駄目だという反省から、新たな施策を打ち出しました」と振り返った。

導入は進んできた・・・でも利用率があがらない・・・なぜ・・・

そこでデジタルアカデミーが取り組んだのが、「従業員を講師にした勉強会」だ。月に1回、お昼の時間帯を利用して開催されるこのオンライン勉強会には、リアルタイムで1,000人近くが集まるほどの人気ぶりを見せている。この勉強会の特徴は、高度なテクニックを教えるのではなく、実際に活用している従業員に講師になってもらい「失敗談」や「苦労話」に焦点を当てている点にある。「ベンダーさんや他社の成功談よりも、身近な同僚の失敗談などの方が共感を呼ぶと実感しました。この勉強会が、『生成AIはよくわからない』と敬遠していた人たちの心理的ハードルを下げる場として機能しています」と沖中氏は語る。

共有すべきはプロンプトではなく「AIとの向き合い方」だった

さらに、活用事例が自然発生するのを待つのではなく、自ら「生成AIを活用できるトップユーザー」を生み出すための施策として、部署を限定した実践トレーニングも実施した。

その第一弾として、グループ各社の「総務部」から約20名を集め、伴走型の研修を開催した。あえて部署を限定したのには狙いがあった。例えば、総務部の業務の1つに「防災訓練のシナリオ作成業務」がある。この業務は通常、担当者が頭を悩ませながら数日間かけて作成しており、グループ各社の総務部担当者に共通の悩みであった。このような部署や役割ごとの独自性の高い業務は、現場で生成AIを使って効率化できても、他の部署など周囲からの共感を得にくい。しかし、同じ「総務部」という共通のバックグラウンドを持つメンバーを集めることで、業務の悩みやユースケースをすぐに共有・共感できる環境が生まれた。参加者同士が「自分たちの仕事だからこそわかる」という感覚のもとで試行錯誤を重ねることで、単なるツールの使い方を学ぶ場を超え、「自分たちの業務を自分たちで変えていける」という当事者意識と自信が醸成されていった。

部署を限定したオリジナル研修を企画

「この研修は聞くだけではなく、毎回宿題を出さなければ次回に参加できないという厳しいルールにしました。募集の時点から厳しい研修になることを伝えていたので、前向きに取り組んでくださる方が多く参加しました。最終的に、総務部の業務に特化したプロンプトを作れるユーザーがたくさん出てきましたね」と沖中氏は教えてくれた。

効果・成果

利用率の高いユーザーや部署ほど、RAGを頻繁に活用
今後は、使うだけでなく「創れる人」を育成し、組織全体のAI活用を底上げしていく

これらのボトムアップDXの取り組みにより、ChatAIの利用はグループ20社以上、約3,500名へと急拡大した。しかし、イオンデジタルアカデミーは現状に満足していない。更なる活用推進に向けてChatAIの利用状況分析を進めると、1つの発見があったという。

「ChatAIの利用頻度が低い利用者はチャット機能の利用割合が多く、主に検索の代わりや要約・翻訳などシンプルな使い方をしていました。一方、利用頻度が高い利用者はRAG機能の利用割合が高く、社内のデータや手元のファイルを連携させ、自分自身の業務に合った使い方をしています。数字にすると、利用回数が多い上位10%の利用者はRAGなどチャット機能以外の使い方が全体の50%程度を占めるのに対し、利用回数が多い上位10%を除いたユーザーは、RAGなどの使用は全体の19%程度に留まっていました。」

利用回数の多い利用者ほどRAGなどの使用割合が多い

さらに部署ごとに分析を進めてみると、部署単位でも同じように利用回数が多い部署ほど、RAG機能を用いて部署の業務により適した使い方をしていることがわかったそうだ。

そこで、イオンデジタルアカデミーは次なるフェーズとして、新たな実践トレーニングを開始する。「今までは個々人に対して、生成AIを使えるようになる研修やサポートを行ってきましたが、今後は生成AIを使えるだけでなく、活用を広める仕組みを創れる人を育てて行きたいと思っています。ChatAIでは、カスタムチャットというプロンプトや参照資料を指定し、特定の役割を持つ独自チャット環境を構築できる機能があります。この機能を使えば、生成AIに不慣れな人でも安定した精度で、今までよりもより業務に直結した使用ができます。」

使う人→「創れる人」へ育成し

最後に沖中氏は、ボトムアップDXを推進する管理者として「AIを使える環境を整えただけでは意味がありません。AIを『武器』だと感じられるところまで引き上げる必要があります。現場から自然と活用が広がっていくという都合のいいことは起きづらく、私たちのような管理者が、仕掛けや育成の環境を生み出し続けなくてはいけません」と想いを語ってくれた。

ユーザーローカル ChatAI
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