コールセンターの応対履歴作成は3分の1に短縮し、加盟店の特定は1ヶ月から数分へ。日常業務に溶け込むインフラにまで浸透させた東急カードのChatAI活用術

東急グループの一員として、クレジットカード「TOKYU CARD」を発行する東急カード株式会社(以下、東急カード)。東急グループ各社の決済・ポイントサービスの基盤を担い、利用者の暮らしに寄り添うサービスを提供している。世間の生成AIに対する関心が高まり始めた2023年、同社はいち早く業務への活用に着手した。それに伴い、社員が個別に外部ツールを契約してしまうリスクを懸念し、会社としてAI活用の環境を整備するために「ユーザーローカル ChatAI」(以下、ChatAI)を導入した。

導入から約2年半が経過した現在、東急カードではアカウントを持っている従業員の9割以上がChatAIを日常的に利用するまでに浸透している。コールセンターの応対履歴作成や、クレジットカード明細に記載された加盟店名の特定など、自社の業務にカスタマイズされた活用方法が次々と生まれ、業務時間の短縮や品質の平準化を実現しているのだ。ここでは、東急カードにおけるChatAIの導入背景や社内浸透のプロセス、具体的な活用方法と成果について、お話を伺っていく。

東急カード株式会社
東急カード株式会社
コーポレートグループ デジタル変革推進チーム
花輪 凌 氏、庄子 真帆 氏

導入背景

私的な生成AI利用による情報漏洩は絶対に避けなくてはいけない
始めやすい価格と充実したセキュリティ機能が、ChatAI導入の決め手

東急カードがChatAIの導入を検討し始めたのは、ChatGPTが世間を賑わせ始めた2023年のことだった。世の中で生成AIの活用機運が高まる中、同社でも業務への活用を望む声が高まっていた。一方で、東急カードでは機密情報を数多く扱うため、統制の取れた環境と万全なセキュリティ対策が必須だ。花輪氏は当時の状況について「AIを活用していくべきだという声が広がるにつれ、社員が個別で契約や利用をしてしまう可能性がありました。私たちは個人情報を扱うことが多く、個人の使用による情報漏洩は絶対に避けなければいけません」と振り返る。

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会社として生成AIの活用を始める際、東急カードでは具体的な活用方法を洗い出すことよりも、「まずは生成AIで何ができるかを探る」という前提でスタートしたという。「当初はまだ何に活用できるか分からなかったので、一回試しに使って可能性を探ることから始めました。その中でも、最も重視していたのはセキュリティでした」と庄子氏は語る。

ツールの選定にあたっては、クラウド型・オンプレミス型で比較検討した。しかし、従業員数約250名規模の同社にとって、オンプレミス型はコスト面で現実的な選択肢にはならなかった。また、生成AIモデルのアップデート速度を考えると、自前でシステムを構築しても、すぐに遅れてしまう懸念もあったという。その点、ChatAIはアップデートが早く、花輪氏は「新しいモデルが出るとすぐ反映されるので、非常に頼もしいです」と感じている。

最終的にChatAIを選んだ決め手として、まずは価格が魅力的だったことを挙げた。「ChatAIは低価格で始められるので、生成AIの可能性を探るのに最適でした」と花輪氏は教えてくれた。

また、重視していたセキュリティ面での安心感も導入の大きな理由となった。日本法人によって提供されているという安心感に加え、特に評価したのが「マスキング機能」だ。同社のようにクレジットカード会社が生成AIを利用する場合、カード番号などの機密情報が漏洩してしまうリスクは無視できない。ChatAIには、指定した情報が自動でマスキングされる機能が備わっており、これが安心して使える環境を整える上で決定的な要素となった。「カード番号などの機密情報を誤って入力された場合でもマスキングされるように設定できるので、社内で稟議を上げる際の大きな説得材料になりました」と説明してくれた。

活用方法

ChatAIを使って業務を早く終わらせる人の姿が、社内浸透を促進した
研修から生まれたカスタムチャットが、各部署でなくてはならないインフラに

東急カードでは営業職や企画職など幅広い部署で実証実験を行い、活用方法は管理画面の履歴を見ながら把握する仕組みを採用した。「皆さん仕事で忙しいので、こちらから『何に使っていますか』とヒアリングするよりも、利用履歴を追って『こういう使い方があるのか』と発見していく方が効率的でした。ChatAIは利用状況の分析機能が充実しているため、利用者にわざわざヒアリングをしなくても、何に使っているか分かるのは助かります」と花輪氏は語る。

浸透の過程で特徴的だったのは、ChatAIの魅力が自然に広まっていったことだ。花輪氏は「各部署でChatAIを使っている人が仕事を素早く終わらせる姿を見て、『自分もChatAIを使ってみよう』と興味を持つ人が増えていきました」と教えてくれた。

一方で、人材育成の観点から計画的な施策も実施した。営業やコールセンターなど各部署から12名程度を選抜し、3日間ほどの研修を行った。生成AIの基礎を学んだ上で、自部署向けのカスタムチャットを自分たちで開発する取り組みを行ったのだ。現在では、そのカスタムチャット機能が同社において半分以上を占める割合で活用されている。

代表的なカスタムチャットの1つが、コールセンターで使われている「電話音声要約」だ。同社のコールセンターでは音声をテキスト化しているが、それだけでは応対履歴として使えない。そこで、ChatAIに通話のテキストを貼り付けるだけで、即座に指定の文字数で要約してくれるカスタムチャットを構築した。「基幹システムの仕様で、応対履歴の数字やアルファベットは全角入力でなければいけません。何度かプロンプトを工夫して、『1→1』『A→A』のようにテキストで伝えることで、安定して全角で出力されるように調整しました」と庄子氏。

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当初、ベテラン従業員からは「自分で書いた方が早い」とネガティブな声も上がっていたが、まずは使ってもらうことをルール化した。その結果、今では若手からベテランまで全員がなくてはならないインフラとしてカスタムチャットを活用しているという。

また、「シソーラス確認」のカスタムチャットも多く活用されている。東急カードでは、営業ポスターやホームページの案内文などについて、表現に関する社内ルールが細かく定められている。新入社員や営業担当者が全てのルールを把握するのは難しく、制作部門との確認の往復が頻繁に発生していた。

庄子氏は「営業の人がルールを見ながら確認していた作業を、AIに任せるようにしました。制作物を添付すると間違いを指摘するだけでなく、修正案も出してくれるので、制作部門とのやり取りが大幅に削減されました」と語る。このカスタムチャットでは、規定の表現を1つのファイルにまとめ、それをカスタム指示に入れ込む形で安定した出力を実現した。

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さらに、「加盟店名称推測」カスタムチャットもよく使われている。お客様から「身に覚えのない請求がある」と問い合わせがあった際、明細に記載された加盟店名から、その店舗の業態や所在地を推測するために使われているのだ。「最初は加盟店名をそのままChatAIに打ち込んでいたのですが、回答が安定しませんでした。そこで、カスタムチャットとして『これはクレジットカード明細に記載される加盟店名のことです』『日本以外の言語で記載されている場合は読み仮名を明記してください』『決済代行会社の名前が入っていることもあるので考慮してください』など、細かいルールを指示して安定した出力を実現しました」と花輪氏は工夫を語る。

今まではこういったカードの不正利用を検知する際には、専門担当者が過去の経験をもとに不正利用がされているかを調査し、わからなければ国際ブランド経由で現地の銀行などに問い合わせ、担当者から回答をもらうという作業を行っており、解決まで1ヶ月、場合によっては半年かかることもあったという。

ところが、ChatAIを使うとお客様と通話している間に検索が完了し、その場で回答できるほどにまで業務が効率化された。花輪氏は「例えば、ベトナム語で書かれた加盟店名が明細に出てきても、AIが『これはベトナム語でドラッグストアと書いてあります』と教えてくれます。お客様も『それなら旅行先で使ったかも』と思い出せるので、その場で解決に至ります。専用のAIを開発するとなると膨大な金額になりますが、それほどの機能をChatAIのカスタムチャットでは実現できます」と語ってくれた。

東急カード株式会社
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これらのカスタムチャットには、利用部署を絞り込む工夫も施されている。「全てのカスタムチャットが全員に表示されると、どれを使っていいか分からなくなってしまいます。コールセンター用のものはコールセンターだけ、債権管理用のものは債権管理部署だけに表示するように権限を設定しています」と花輪氏は教えてくれた。

効果・成果

社内での活用が進み、ユニークユーザー数は全アカウントの9割超にまで増加
海外加盟店の特定は1ヶ月から数分へ短縮し、開発なら膨大なコストがかかる機能をChatAIで実現

ChatAI導入の効果は、利用率の高さに明確に表れている。特筆すべきはユニークユーザー数で、アカウントを持っている人の約9割が日常的にChatAIを利用している状況だ。「これだけの人数が日々利用する生成AIシステムを自前で作っていたら、従量課金料金がいくらかかるか想像できません」と花輪氏。中でもカスタムチャットの利用率は高く、全体の5〜6割を占めている。

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これだけカスタムチャットが使われているのは、業務効率化につながっているからだ。庄子氏はその効果について「2〜3分かかっていた応対履歴の作成が、電話音声要約のカスタムチャットにテキストを貼り付ければ瞬時に出てくるようになりました。そこから手直しを加え、最終的に3分の1ほどに時間が短縮されました」と説明する。

東急カードが感じている成果は時間短縮だけにとどまらない。「新人とベテランの作る応対履歴の品質が平準化されたことも大きな意味を持ちます。新人だと10分かけて長文を書いてしまったり、逆にほとんど履歴を残さない人がいたりとムラがありました。ChatAIを使うことで、必要な要素が漏れなく標準化された履歴になります」と花輪氏は語る。応対履歴はお客様から再度問い合わせがあった際の参照情報となるため、品質の標準化は顧客対応そのものの質向上に直結するのだ。

庄子氏は現場の変化について「以前は『一度折り返します』となっていた問い合わせも、分かりやすくまとまった履歴をその場で確認できるので、すぐに回答できるようになりました。1件の対応時間を短縮できたことで、次の電話までの間に一息つける余裕が生まれ、心理的な負担が軽減されています」と感じている。

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カスタムチャットがもたらした価値について、花輪氏は「生成AIに詳しい人でも、そうでない人でも、誰もが同じ品質でAIの恩恵を享受できるところが、カスタムチャットのいいところです。先週入社した派遣社員の方でも、すぐに使えています」と語り、庄子氏も「プロンプトを入力する手間がなく使えるので、日常業務に溶け込んでいます。カスタムチャットは業務効率化もできますし、品質も保てます。従業員全員のリテラシーを底上げするのは難しいので、カスタムチャットで仕組み化していくのは素晴らしい仕組みだと思います」とそれぞれ語る。

東急カードでは、ChatAI活用が次のフェーズに進もうとしている。直近では、音声議事録機能の運用を始めたところだ。庄子氏は「私自身も使ったところ、議事録が簡単に作れました。簡単な共有用ならそのまま使えるほどの精度です」と手応えを感じている。

さらに、画像生成やPowerPointのスライド生成といった機能も展開していく予定だ。花輪氏は「ChatAIでは、より高度なことができる環境になってきているので、効果的に活用していきたいですね。現状に満足してしまうのはよくないと思うので、常に新たな活用を模索していきます」と、今後の決意を語ってくれた。

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